おいしいそうなケーキ

「おいしそう」にしたつもりが「おいしいそう」だった

世界の終わりに纏わる短編と関係ない短編

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   三年前からたまに書いている短編が、いくつも僕のデスクトップに転がっています。

  これをはてなブログで公開しよう!に至るまでにえらく時間がかかってしまいましたが、今回はしぶしぶ公開します。

   

  何を載せようかと考えていると、どうやら僕は1年に1回ずつ「世界が終わる話」を書いていたことに気がついて笑っちゃった。多分三年前から世界に終わってほしかったんだと思う。

 それなので、世界の終わりに纏わる短編四つ、と、いきたいのですが、そのうち二つは公開不可能な仕上がりなので残り二つと、世界の終わりは全く関係ない短編一つ、計三つです。

 

 

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大魔王ホビロンに捧げる心臓 

(お題:遠くて近い光、身も心も捧げた次に、解けたリボン) 

 

 卒業式に流れる涙にはこれからの希望が詰まっています。陽の光を受けてきらきら輝くのはそのためなのです。

 しかし私の涙は一粒も光ることはなく、深い絶望を宿した錆びた鉄の色でした。希望はどこかと、鵜の目鷹の目探し回ったところでどこにも落ちてはいません。

 大学受験。第一志望にかくも儚く破れてしまい、滑り止めをことごとく滑り倒し、最寄りの予備校は2万光年先。就職しようにも、労働なんて花も恥じらう十代の乙女がすることではありません。私を女子高生足ら占めたセーラー服の赤いリボンは解けてなくなって、代わりに首元に荒縄が結ばれようという始末でした。

 このまま首を括って死ぬのかしら。それともインターネットカフェにふらりと迷い込んで殿方に拾ってもらうのも悪くないのかしら。

しかし、絶望の淵に輝かしい救いの手は差し伸べられたのです。

「この大魔王ホビロンに忠誠を誓い給え」

 それは卒業式の三日後。ピンクのパジャマでベッドに寝転んだまま過ぎた三日目の朝でした。深い絶望エネルギーに引き寄せられた大魔王ホビロン様は、枕元に降臨されたのです。

 最初、私はホビロン様の名前について勘違いしてしまい、「ホントびっくりするほど論外の略語化でしょうか」等と不躾に質問してしまったのですが、彼の御方の慈悲深いこと海の如しで、「ホントびっくりするほど論外の略語ではない」と丁寧に答えてくださいました。

「この大魔王ホビロンに忠誠を誓い給え」

 私の無礼も意に返さず、再度忠誠を求める彼の御方は、なんとも美しい人徳溢れる素晴らしい御心の持ち主だと見受け、私はその場で大魔王ホビロン様に身も心も捧げることを決意したのです。

 

 大魔王ホビロン様の居城は秋葉原の大通りの先にある、秋葉原ダイビルでした。

 かつて萌という文化が斡旋したこの街に、もはや当時の面影はありません。萌税導入によって萌は富裕層の嗜好品と化し、メイドカフェは風俗施設の隠語、電気街の異名は夜に閃く趣味の悪いネオンサインを示すようになりました。

 今の秋葉原は貧富の格差が著しく、貧しい身なりの女中の方々が通りに犇めいては、道行く殿方に雇ってくおくんなはれ、と声をかけております。彼女らはメイドカフェから転落し、住む場所もなければかつての美貌もない、メイドを風俗嬢の隠語としてしか知らない方々なのです。

 ホビロン様にしても、大層身なりの良い御方ですので、群がる女中は砂糖菓子を見つけた蟻の様相です。

「我が家の給仕は足りている。ここを当たりなさい」

 逐一それの対応をしては、知り合いの連絡先を書く等する大魔王様の傍らにいると、はたと一つの疑問が胸を掠めます。

「何故秋葉原の女中を雇わず、私等に声をかけて下さったのでしょうか」

 先ほどの女中と比べてみても、私に勝る点等微塵もないのです。

 ホビロン様は後ろを歩く私をわざわざ振り返り、答えて下さります。

「あの者どもは生きようと必死だ。いずれ道も開かれよう。しかしお前は駄目だ。この大魔王ホビロンが声を掛けねばいずれ死んでしまっただろう」

 やはり彼の御方の人徳は計り知れません。私の様な能無し、あのまま野垂れ死んだところで、誰も困りはしないのです。それを咎めて生を与えてくれた大魔王ホビロン様は、やはり身と心を尽くすに相応しい御方でした。

 

 大魔王様ホビロン様が目論むのは、世界の崩壊でした。ベルサール秋葉原には彼の御方に忠誠を誓った同胞が五万と集まり、皆が世界の崩壊に向けて日夜研究を進めているのです。

 集まる方々は、やはり一様に人生に絶望した過去があるようで、皆顔を煌めかせてホビロン様の素晴らしき御心を説いて下さいました。

 しかし自らを褒め千切るその文言を真っ向から否定して、彼の御方は言うのです。

「お前達には申し訳ないことだが、繋ぎとめたその生は世界崩壊と共に失われるのだ。この大魔王ホビロンは、緩慢な自殺を諸君らに強いている。どこに人望等あろうか」

 苦悩に満ちたその御姿に、皆揃って落涙を止めることができません。陽の光を受けてきらりと輝く、希望の涙です。大魔王ホビロン様のために、身も心も、命だって捧げて惜しいことがありましょうか。

 死に損ないの心臓をなくしたゾンビの群れは、大魔王様へ捧げる崩壊の旋律を、ただ編むのみです。

 

 「大魔王ホビロン様はどうして世界を崩壊させたいのですか」

 私は一度、無礼を承知でお訊ねしたことがあります。

 彼の御方は、秋葉原ダイビルの三〇階から世界を見下ろしていらっしゃいました。

「昔、秋葉原という地にはゲーマーズがあった」

「AKIHABARAゲーマーズは未だ御座いますが」

「そうではない。ゲーマーズなのだ」

 酷く憂いた目です。私には何が憂いのか見当もつきはしません。

秋葉原にはデ・ジ・キャラットがいた。今はいない」

 ピンク色のネオンが眩しく、如何わしい語呂合わせのされた電話番号が大きく載った看板を指さします。そこにでじこが居た、と言うのです。

「全ては諸行無常なのだ。でじこがいなくなり、ゲーマーズがなくなり、二度と帰ることはない。この大魔王ホビロンの目に映る秋葉原は、秋葉原ではないのだ」

 全ての文脈を理解することは叶わなかったのですが、言葉の随所から滲む痛い想いを汲み取ることは十二分にできました。

私は胸の前でそっと手を合わせます。

 この電気街秋葉原を覆う煌びやかな光は、永遠に大魔王様の心に届くことは無いのです。

 きっと彼の御方は、卒業式の私なのです。眼下を滑る希望の光は、一つも胸を打つことはありません。

 お話の後で、私はデ・ジ・キャラットについて勘違いしてしまい、「デ・ジ・キャラットとはエロゲーのことでしょうか」等と不躾に質問してしまったのですが、彼の御方の慈悲深いこと海の如しで、「デ・ジ・キャラットエロゲーではない」と丁寧に答えてくださいました。デ・ジ・キャラットエロゲー等という浅はかな勘違いは、言語道断、ホントびっくりするほど論外なのです。

 錆びた鉄のネオンが閃くこの世界に、崩壊が芽生えるのはもうすぐです。

 

 

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ギャラクシーミカ―棚から牡丹餅、はなから彼氏持ち―

 (お題:お日様の匂い、指の隙間からこぼれたものは…、今から20年後もきっと)

 


「布団を干した時のそれって、ダニの死臭なんだぜ」
 俺の無意味な破壊衝動は、ちっぽけな頭の中で飼うにはあまりにもでかすぎて、時たまずるりと零れては、小さな幸せをぶち壊そうと躍起になる。
 俺がインターネットにあった知識で殴りつけてやったのは、丁度ミカが、太陽をたっぷり浴びた布団に、ベランダで顔を埋めてぽかぽかしていた時だった。
 しかし幸いなことに、病的で無意味な破壊衝動は一回だってミカの幸せをぶち壊したことはない。それは決してその幸せが屈強なわけではなくて、ミカ自身が屈強なのだろう。
「お日様の匂いじゃなくて?」
「そう。ダニの死臭」
「インターネットに書いてあったの?」
「インターネットに書いてあった」
「あなたがダニの死体を嗅いだことはないの?」
「ダニの死体なんて嗅がないに越したはないだろ」
 仕様がなくて病的で無意味な破壊衝動は、ミカの幸せをぶち壊すことは決してなくて、いつも壊れてなくなるのは俺の常識の天井。
「それじゃあ今から、太陽の匂いを嗅いでこようじゃない」

 だから俺の漏らしたつまらないインターネットの知識は、俺とミカの宇宙行きのチケットに変わってしまった。


 善は急げとミカは早急に布団を取り込んで、エプロンを外す。俺は寝転んだ身体を起こして、プーマのジャージからカーキ色のセーターとジーンズに着替える。電池で動く扇風機とアイスクリームを持ったら準備は万端。駐車場に停めてある真っ赤な宇宙船(ミカお手製)に乗ると俺たちは太陽へ向けて飛び立った。
 晴れ渡った空に飛び込んで雲を突き抜けると、すぐに黒い宇宙に突入する。
「宇宙って真っ直ぐ突き進めば突き当たるから、分かりやすいわね」
 ミカは方向音痴だから、どこへ行くにしたって迷うけど、宇宙だけは絶対に着ける。多分、 方向音痴のために宇宙とはあるのだと思う。
 真黒な海に一回出てしまえば、太陽に行くのなんて簡単で、白い光を追いかけると太陽はすぐに姿を現した。
「ほら窓開けて」
「アイス食い終わったら」
 俺が白い渦巻きをガツガツ流し込む横で、ミカもグングン飲み込む。扇風機を回しながら舐めるアイスクリームは、早く食べないと溶けてしまう。太陽の周りは発情したウサギの下腹部みたいに熱いのだ。
 冷たい塊が腹の中に全部消える頃に、宇宙船の窓を開く。酷く熱された暗黒物質が中に滑り込んできて、赤い宇宙船はサウナみたいになってしまう。

「太陽の周りってどうしてこんなに暑いのかしら」
「黒はよく熱を吸収するから」
「それもインターネットに書いてあったの?」
「これもインターネットに書いてあった」
 俺もミカも、息苦しいサウナには耐えきれないと窓から顔を出して深呼吸をする。

 よく嗅いだあれの匂いがした。
「ほら。やっぱり干した布団と同じじゃない」
 太陽の匂いは、インターネットで見たダニの死臭と同じだった。ミカはハツラツとした笑顔で言う。
「やっぱり干した布団の匂いはお日様の匂いなのね」
「いや、太陽は宇宙でダニを殺しているだけかもしれない」

「それでもいいの。だって布団にいるダニの匂いではなくて、太陽の匂いが宇宙から伝わってくることに変わりないでしょ」
 ちなみにミカの笑顔は宇宙一かわいい。太陽が後ろでぎらぎらと光っているが、それよりも眩しくて、甘い香りがする。
 俺の破壊衝動はいつもちっぽけな幸せを壊すことはなく、甘い笑顔に結びついて、それをきっかけにセックスをして一旦消えるのだった。

 

 きっと笑顔を初めて見たのが駄目だったのだと思う。
 ミカが俺に初めて笑いかけたのは、キスをした時だった。 当時からミカは可愛くて魅力的で、だけどそれを放っておく男がいるわけはなくて、当然のように彼氏がいるらしかった。
 それを知りつつも、酔った勢いと破壊衝動に身を任せてミカにキスした俺は大馬鹿だけど、男なんて大体そんなものだろう。一晩一緒に居られれば棚から牡丹餅だし、はなから彼氏持ちの癖に隙だらけのミカにも責任があったと思う。
 俺よりも大馬鹿なミカは唇を離して目を合わせると、「私、今彼氏いないの」とクスクス 笑うのでそういうことらしくて、その時に浮かべた悪戯っぽい笑顔は宇宙一可愛くて、一晩だけと言わずにもっと二人で一緒にいたいというわけで、俺とミカの交際は始まったのだった。
 その時のちっぽけな破壊衝動は膨張して膨張して今に至る。得も言われぬ幸福に味を占めてしまったのが悪くて、俺は初めての笑顔をいつまでも繰り返している。

 きっと二十年後も三十年後も、俺は小さな幸せをぶち壊してやろうと躍起になるだろう。それは本気でミカの不幸を願っているわけではなくて、ただ自分の頭を満たしたいだけなのだ。
 あられもない生理的欲求に、別の名前をつけているだけなのだ。

 

 ベッドの中で俺とミカは話す。
「ねえ。なんで私が彼氏いないなんて嘘をついたか分かる?」
「俺とセックスしたかったからだろ」
「違うよ」
「嘘つくなよ」
「嘘じゃないよ」
 ミカは笑う。
「今度インターネットで検索してみたら」
 ミカの秘密は、きっとインターネットのどこにも書いていない。
 手に余る乳房が、掌から零れ落ちた。

 

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世界の終わりにパスタの付け合せの雨と埃を食べる

 

 よく分からないけど、世界は終わってしまった。

 私はテレビもインターネットのニュースも見ないし、新聞も読まない。部屋から出ないから人との交流もなくて、違う国に住んでいる親戚のアリスさんから送られてくる野菜とパスタだけを食べて生きている。だから世界が終わっていたのには、本当に驚いてしまった。毎週火曜日に必ずダンボールで送られてくる野菜とパスタが、その火曜日には届かなかったのだ。

   てっきり時計が壊れてしまったのかと最初は疑ったけど、どうにもそうじゃない。不思議に思って十年ぶりに遮光カーテンを開けて外を見ると、びっくりした。そこは一面瓦礫の山だった。

  たしか、最後に窓の外を見た時には、目の前には大きな道路が通っていて、そこを隔ててバイク屋があったはずだ。その隣には同じようなアパートがどこまでも続いていたし、気持ちよさそうに歩く人影だってあった。

   それらは全部なくなり、瓦礫になってしまった。ついでに空も青くない。蛍光色のライムグリーンが塗られている。これが世界の終わりでなくて、なんだと言うのだろう。

 こういう始末なので、世界が終わってしまったことについてはよく分からない。世界が終わったのは火曜日ではなくて、ひょっとすると月曜日―あるいは日曜日には既に終わっていたのかもしれない。私がそれを認識したのが、火曜日だったというだけなのだ。

 世界が終わったことはあまり私に関係がなかった。だって、冷蔵庫にはまだキャベツが二玉あるし、茄子もマッシュルームもどっさりある。それとパスタ。これは多分百年かかっても食べきれない。どうせ部屋から出ない私なので、世界の終わりは何一つ私の生活に干渉せず、一ヶ月が経過した。

   私は毎日、暗い部屋の中で歌を歌うか聞くかしている。もっぱら好きなのはアニメソング―アニメを見たことは一度もない。アニメソングのわざとらしく着色されたメロディーが好きなのだ―なので、そればかり歌って聞いている。

「僕等は目指した Shangri-La欲望を抑えきれずに 空想にまみれた 自由を求め続けた今なら言えるだろう 此処がそう楽園ささよなら 蒼き日々よ」

歌詞の意味について深く考えたことはない。ただ、情熱的なメロディーが気持ちよくて、なんとなく口ずさんでいて気持ちいい言葉なのだ。

 暗い部屋の中で歌と触れていると、自分が歌になったように錯覚する時がある。メロディーが血肉となり、それを支える言葉が骨。伸びたり縮んだりして、部屋の中で躍動する。ひょっとすると錯覚ではないのかもしれない。私は気が付くと、歌になっていたのだろう。

 しかし、私がたとえ歌だとして、世界が終わってなお何一つ変わらずに動いてられるほど、世界の存在はちっぽけではなかった。

 まず蛇口から水が出なくなった。ガスコンロから火が出なくなった。気が付いた時には電気も止まっていた。野菜なんてとっくに全部なくなっている。

 公共料金はアリスさんの口座から引き落とされる手筈になっており、ここ十年間一度もそれらは止まったことがなかったので、正直面食らった。アリスさんに何かあったのだろうかと心配になったが、それは杞憂に終わる。

 そういえば世界が終わっているのだった。あまりにも生活が変わらないためすっかり忘れていた。考えればむしろ、よく一ヶ月も動いていたと思う。

 こうなると困ってしまう。水が飲めなければ喉が渇くし、何よりもパスタを茹でることができない。

 どうしようかと考えながら、私は茹でる前のパスタを齧る。

なるほど、これは美味しくない。

「朝、目が覚めたらもう 昨日みたいな日常はなくて ホントあぁもう…、えっとどうしよう ため息混じりに練る お菓子と妄想のレシピの中に 恋心入っちゃった」

 考え事をしていたら、自然と歌が口から毀れていた。

「シフォンケーキに、カスタード スコーンにクロテッドクリーム だけど、やっぱこれっておかしいわ どうして私なんだろ 急にそんな事、言い出して」

 しかし考えても考えても、今回ばかりは、この部屋の中ではどうしようもない気がした。私が十年間一歩たりとも外に踏み出さなかった、ワンエルケーの六畳間。ここにあるのはCDとオーディオとテーブルと食器。衣類。あとはパスタを作ることができなくなった台所。これらで美味しいものを食べて、喉の渇きを癒すのは不可能だった。

 それなので、私は十年ぶりに外へ出る決心をする。外に出てどうするかというのは、よく分からないけど、このまま部屋の中にいるよりはなんとかなりそうだった。

気合を入れて十年ぶりに灰色のパジャマを脱ぐと、ハンガーに吊るしてあった真っ黒いセーラー服を着た。あの頃はまだぶかぶかだったセーラー服が、ぴったりになっている。それから洗面所の鏡で前髪を整えたら準備は完璧。

「あぁ、どうしよ 君を好きになっちゃうかなんて 分からないけど 大切な人だなんてあー照れくさいかな 君は真面目なトーンで、好き ってなんて言うでしょ ちょっと、ドキッとしちゃうじゃん なんて非日常的なレボリューション」

 考え事をしていた時よりも、良い気持ちで歌が歌える。

 私は玄関のドアを開いて、足を踏み出した。

 外は窓から見た通り、一面灰色の瓦礫だった。人は誰もいなくて、聞こえるのは私のご機嫌な歌だけ。蛍光色のライムグリーンな空に、アニメソングが吸い込まれる。

「朝目が覚めて 真っ先に思い浮かぶ 君のこと」

 明るい色のローファーが地面に降りるたび、土ぼこりが舞った。がちゃり、なんて固い音もする。ローファー越しに伝わる無機質な感覚は新鮮だった。裸足で踏むフローリングとはワケが違う。きゅっ、と鳴るあの部屋の床よりも、大地はなんだか頼りがいがある。

「思い切って 前髪を切った どうしたの? って 聞かれたくて」

 セーラー服はいつの間にか砂煙で薄汚れている。これには少し落ち込んでしまう。折角気合を入れてパジャマから着替えたのに、これじゃあ台無しだ。私は汚れるたびに、注意深くはたいて清潔にする。

「ピンクのスカート お花の髪飾り さして出かけるの 今日の私は かわいいのよ」

 瓦礫が積み重なっているところへ登ってみた。そこは小高い丘のようになっていて、ジェンガみたいに組挙がって出来ていたけど、意外としっかりしている。私はそこに体育座りして、茹でていないパスタを齧った。

 目を凝らして遠くを見渡すと、どこまでも同じ光景が続いていた。蛍光グリーンの空と灰色の瓦礫。

 これが世界の終わりか、と思った。

 世界は終わると、二色になってしまうのだ。

 気になってセーラー服を見ると、薄汚れてはいるものの、しっかりとした黒色に赤いリボンが結ばれているので安心した。

「メルト 溶けてしまいそう 好きだなんて 絶対にいえない だけど メルト 目も合わせられない 恋に恋なんてしないわ わたし」

 ふと、歌に混じって何か音が聞こえることに気が付いた。

 みしみし。みしし。啜り泣くような悲しい音。心臓が、きゅっと冷たくなる。

 次の瞬間、それは、ばらあんと豪快な音に変わり、座っている瓦礫の山が崩れた。あれよと言う間に私は落下して大量の瓦礫と砂埃を浴びた。

 鈍い衝撃が体中を叩く。そのまま私は生き埋めになったが、幸いにも瓦礫に押しつぶされることは無く、ただ暗闇に閉じ込められた。

 あちこちが痛みはしたものの、どうやら問題なく動くようなので、上体を起こして辺りを見渡す。薄暗くはあるが、瓦礫の隙間から空の光が入り込みそれなりに見える。どうやら、瓦礫が丁度屋根のような形になり、ドーム状の空間になっているらしかった。スペースは六畳ほどあって息苦しくはない。

 なるほど、どうやら私の部屋と同じだった。違うのは足元の感覚位のものだろう。

 しかし身体がどうにも痛く、膝からは血が流れている感覚がした。

「―――あ」

 膝を見やった私の口は絶叫していた。

 歌とパスタと水以外を口にするのは、本当に久しぶりのこと。

 私は灰色になっていた。セーラー服も、手も足も、膝から流れる血も。ライムグリーンの明かりに照らされて、六畳間は全部同じ色。私は灰色の塊になっていた。

 手に持っていたパスタは落下した拍子にどこかに消えてしまい、アニメソングは一つも思い出せない。

 私はちっとも歌ではなくて、人間だった。

 

 それから私は、目を瞑って瓦礫の山に挟まって口だけ開けて雨と埃だけ食って辛うじて生きていた。

 

 

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感想

 

  大魔王ホビロンに捧げる心臓

(お題:遠くて近い光、身も心も捧げた次に、解けたリボン)

 

  ランダム生成されるお題に沿って短編を1日1つ描く!という試みにハマっていた時期のヤツです。(お題)というのはそれ。

  「身も心も捧げた次に」というお題に対して、「身も心も捧げたら次は世界だな」と思ったので世界が終わりました。

  デ・ジ・キャラットが好きなので、デ・ジ・キャラットの話をしたかった。

 

 

ギャラクシーミカ―棚から牡丹餅、はなから彼氏持ち―

(お題:お日様の匂い、指の隙間からこぼれたものは…、今から20年後もきっと)
 

 お題シリーズで一番好き。

「お日様の匂い」というお題について、真っ先に「布団を干した時の匂いはダニが死ぬ匂い」というインターネットで得たつまらなすぎる知識が頭に浮かんだ自分が嫌で、それを破壊する内容になりました。

  「指の隙間からこぼれたものは…について触れていない」と気づいて、「とりあえずおっぱいでいいか」と付け加えられた最後の一文もロックで良い。

 

 

 

世界の終わりにパスタの付け合せの雨と埃を食べる

 

  先月に「世界、終わって欲しい」と思って書いたやつです。

  僕は世界の終わりに救いを求めているので、まさか埃をたびるENDとは思わなかったけど、たぶん「現実から逃げるな」と自身に対する警告を込めたのでは。

   これが一番最近に書いたはずなのに、昔より良くなっているのか分からない。

 

 

  短編というよりも、どれもショートショートくらいで、特に山もオチもないので、読んだ人がどう思うのか気になる。僕も何度も読んだけど、よく分からない。

 

 他にもあるので少しずつ載せたい。